NAPHTHA ─ THE REAL NUMBERS

全石油は▲17%
でも工場の原料は▲35.6%だった。

ナフサ国内販売(4月・前年比)
▲35.6%
193.8万kL。石油統計速報4月分で確定(5/29公表)
家庭のガソリン(4月・前年比)
▲7.5%
補助金で価格170円維持。痛みは家庭にほぼ及んでいない
エチレン稼働率(4月・JPCA)
67.3%
過去最低。石化プラントは操業停止級の打撃を受けた
構造 ① 痛みは偏って配られた
全体 ▲17% の削減は、
均等ではなく工場の原料に集中した
家庭のガソリンは▲7.5%。一方ナフサは▲35.6%。「平均17%」という数字が、この集中を覆い隠す → ①痛みの偏り
構造 ② ナフサには逃げ場が無い
原油は備蓄で時間を稼げる。
だがナフサは備蓄対象外
緩衝材は川中製品在庫1.8ヶ月だけ。供給不足が即・減産に直結する。だから痛みがナフサに集まった → ②なぜ集中
そして、この打撃は工場で止まらない
ナフサ依存度 88% の業種にとって、
これは事業継続そのものの問題になる
プラスチック・合成繊維・染料・医薬・接着剤・タイヤ。川下の最終製品の価格と供給は、この▲35.6%を起点に動き始める。
2026 . 06 . 01 時点 4月分=5/29石油統計速報 確定値反映 5月分=暫定(6月下旬 確報化予定)
SECTION 01

「平均17%」は、痛みの偏りを隠している

このセクションで見せたい結論:全石油でならせば節約率は17%。だがその17%は均等に薄く広がってはいない。家庭のガソリンは▲7.5%で温存され、痛みは工場の原料=ナフサ(▲35.6%)に集中して押し付けられた。

ナフサ(工場の原料)
▲35.6%
国内販売193.8万kL。5/29速報で確定。平時シェア22%
ガソリン(家計)
▲7.5%
構造減を除いた真水。販売自体は▲10.9%
エチレン稼働率
67.3%
JPCA4月実績。過去最低水準
全石油 加重平均
▲17%
用途別を平時シェアで加重平均した数字
◆ 用途別の節約率(4月)─ 同じ「平均17%」でもこの開き
用途平時シェア節約率根拠
ナフサ(工場の原料) 22.2% ▲35.6% 実測5/29石油統計速報4月分でナフサ国内販売193.8万kL(前年比▲35.6%)確定。生産は90.7万kL(▲22.8%)。芳香族工業会4月速報もベンゼン▲36%・キシレン▲37%と整合
LPG・潤滑油等(石化由来) 12.4% ▲35% 推定石化誘導品の連鎖減産から類推。直接の月次統計なし。要確報検証
国際バンカー(船舶燃料) 6.6% ▲15% 推定中東タンカー貿易停滞で日本港の給油需要減と類推
灯油・A重油・ジェット等 14.9% ▲8〜12% 推定季節要因・産業稼働による小幅減
軽油(物流) 18.3% ▲5% 推定暫定税率廃止効果は継続もわずか減
ガソリン(家計) 23.7% ▲7.5% 実測5/29速報でガソリン国内販売310.3万kL(▲10.9%)確定。構造減(燃費改善・EV化)▲2〜3%を除いた真水は▲7〜8%。補助金で170円維持下でも家計が予防的節約に入った
全石油 加重平均 100% ▲17% これが「全体の節約率17%」の正体。ガソリン▲7.5%とナフサ▲35.6%を平時シェアで加重平均した値。痛みの集中を覆い隠す平均値

※用途別シェアは経産省石油統計の平時構成。確報レベルで確定しているのはナフサ▲35.6%・ガソリン▲10.9%。LPG等は石化連鎖からの推定で、6月下旬の確報で検証予定。

「平均17%」は、痛みの偏りを隠す数字

全体17%という数字は嘘ではない。だが家計(ガソリン▲7.5%)は控えめな痛みで、工場(ナフサ▲35.6%)が削減の大半を被っているという構造を、平均値は見えなくする。家庭の生活が「平時通り」に見えるのは、痛みが見えない場所に集中して押し付けられているからだ。

では、なぜ痛みは家庭ではなく工場に集まったのか。理由は「ナフサには逃げ場が無い」こと ── 次のセクションへ。

SECTION 02

原油は備蓄で時間を稼げる。ナフサは稼げない

このセクションで見せたい結論:痛みがナフサに集中したのは偶然ではない。ナフサは1987年の石油審議会決定で国家備蓄の対象外。原油のように貯金を取り崩して時間を稼ぐ緩衝材が無いため、供給不足が即・減産(▲35.6%)に直結した。

原油の緩衝材
112
国家備蓄+共同備蓄(5月末)。IEA最低ライン90日まで取り崩して時間を稼げる
VS
ナフサの緩衝材
1.8ヶ月
川中製品在庫のみ。しかもこれは原料ではなく製品(PE/PPペレット)で、ナフサには戻せない
供給28%減(充足率72%)の穴を埋める貯金が無い。だから穴は、その月のうちに▲35.6%の減産として現れた。
◆ 政府「ナフサ年越し供給可能」(4/30)の4つのトリック
トリック内容
① 国産990の継続前提 国産ナフサの継続を前提にするが、これは原油の精製に依存する。原油版で備蓄が枯渇すれば国産も止まる。政府254日→実効71日に圧縮済(原油版)
② 川中製品在庫560の混入 PE/PPペレットを「ナフサ4ヶ月分」に算入。だが化学プロセスは不可逆でペレットはナフサに戻らない。これは製品在庫であって原料在庫ではない
③「中東以外3倍」の根拠 経産省は5月に米国・アルジェリア等から平時の3倍(135万kL超)まで拡大と説明。ただし継続性と単価上昇は別問題(4月の輸入単価は中東産より2割高)
④ ナフサ自体は備蓄対象外 1987年「総合エネルギー調査会・石油審議会」決定でナフサは石油備蓄法の対象外。境野春彦氏(資源エネルギー庁有識者委員):「川中製品在庫を原料の在庫に単純加算しており正確でない」「現場では既に不足が生じている」

「合計が足りる」と「毎月足りる」は別問題

政府の「年越し可能」は9ヶ月合計の足し算であって、毎月の充足とは別の話。緩衝材が無いナフサは、不足が即・減産に直結する。だからこそ4月、政府が「節約不要」と言う一方で、現場のエチレン稼働率は67.3%(過去最低)まで落ちた。

では、このナフサ▲35.6%の打撃は、川下の業種にどう伝わるのか ── 次のセクションへ。

SECTION 03

ナフサ▲35.6%は、業種ごとに不均等に刺さる

このセクションで見せたい結論:ナフサ供給が▲28%(充足率72%)絞られても、全業種が一律に減産するわけではない。ナフサ依存度が高い業種ほど、代替が効かず供給制約が直撃する。依存度88%の環式中間物にとって、これは事業継続そのものの問題になる。

環式中間物製造プラ・合繊・染料・医薬・化粧品・農薬の原料
88.4%
最深
ゼラチン・接着剤製造酢酸ビニル・エポキシ樹脂系接着剤
87.3%
最深
界面活性剤製造洗濯洗剤・自動車用塗料
84.0%
最深
化学工業・石油石炭(全体)3,148社 / サプライチェーン最大
67.2%
工業用ゴム製品自動車・船舶・航空機用ゴム部品
53.9%
ゴム製品(全体)817社 / 防振ゴム・シーリング・グローブ
51.5%
バーの長さ=ナフサ依存度(帝国データバンク調査・商流該当比率)であって、減産率そのものではない。だが供給制約下では依存度が高い業種ほど代替が効かず、減産圧力が一律平均を超えて直撃する。依存度50%超が25業種中23業種。
全体は「節約17%」。ナフサ単体で「▲35.6%」。
依存度88%の業種にとっては、それが事業継続そのものの問題になる。

痛みは三段階で深くなる

この3段階は、それぞれ加重平均・用途別・業態別という別の指標であり、出所が違うので結論は動かない。ここまでが4月の実態だ。では供給は5月以降どう動いたのか ── まず一旦、底を脱する。次のセクションへ。

SECTION 04

5〜6月、ナフサ供給は一旦、底を脱する

このセクションで見せたい結論:ここまでは4月の話。だが供給は4月の72%を底に、5月75%・6月80%へと持ち直していく。中東の穴を、米国・アルジェリア等の代替調達(5月に平時の3倍)と、原油6月調達の目処が立った国産ナフサの下支えで埋め始めたからだ。

4月(底)
72%
供給201万kL。封鎖の直撃で最も絞られた月
5月(暫定)
75%
供給209万kL。中東以外が平時の3倍へ拡大
6月(見通し)
80%
供給225万kL。原油6月調達7割超の目処で国産も維持
代替調達率(5月)
約6
米国産は平時の5倍へ。政府「年越し可能」の根拠
◆ なぜ底を脱するのか ─ 4ルート別の供給積み上げ(4月→6月)
調達ルート平時4月5月6月見通し封鎖時の挙動・根拠
中東直接 120000 実測ホルムズ封鎖で全量消失。タンカー出航ゼロ(Kpler船舶追跡)。シェア43%が丸ごと欠落したまま
国産(原油連動) 1109199102 実測/見込み5/29速報で4月生産90.7万kL(▲22.8%)確定。原油6月調達は7割超の目処(米国産は前年比約8倍)が立ち、国産精製を維持できる見通し
米国産 10354555 推定戦時拡大。日経5/28「米国からのナフサ輸入が5倍へ」。シェール由来で輸出余力大。ただし相場は3割高
非中東(その他) 43756568 追跡アルジェリア・ペルー・豪・印等。中東以外からの輸入は5月に平時45万kL→135万kL超(約3倍)の見込み(経産省4/30)
供給合計 280201209225 充足率 4月72% → 5月75% → 6月80%。中東の穴を代替調達と国産が段階的に埋め、底(4月)を脱していく

※4月は5/29速報の確定値(国産90.7+輸入110.3=201)。5月は暫定、6月は見通しで、6月下旬のJPCA5月実績・財務省貿易統計で確報化予定。ルート内訳(米国産・非中東の配分)は船舶追跡+貿易統計ベースの推定。

ただし「充足」は危機前への復帰ではない

供給量は8割まで戻る見通しだが、代替調達には価格上昇(輸入単価は中東産より2割高・相場3割高)・輸送期間の長期化・品質適合・在庫の偏在・川下へのコスト転嫁という課題が残る。経産省自身、一部で「供給の偏り」「流通の目詰まり」が続くと明記している。量が戻っても、軽質偏重の原油は日本の製油所(中質最適化)で処理がボトルネックになり、国産ナフサが頭打ちになるリスクも残る。

そして何より、この5〜6月の底打ちは「中東ゼロのまま代替で凌いでいる」状態にすぎない。中東直接(平時120)がいつ戻り始めるか ── そこから先の回復の分かれ道を、次のセクションで見る。

SECTION 05

7月以降の回復は、ホルムズ解放の時期次第

このセクションで見せたい結論:5〜6月で底(72%→80%)を脱した先、充足率が100%まで戻るかは、封鎖された中東直接ナフサ(平時120)がいつ物理的に戻り始めるかで決まる。だが政府方針の「節約0%」を前提にすると、下振れシナリオ(④+D=60%)では年内に100%へ届かず、需要抑制が物理的に避けられない

確率 30%
② 6月末 解放
11
充足率100%回復
年内平均充足率90%
物理的不足夏まで継続
確率 10%
③ 7月末 解放
12
充足率100%回復
年内平均充足率88%
物理的不足秋まで継続
確率 30%
④ 9月末 解放
翌2
充足率100%回復
年内平均充足率84%
物理的不足越年
確率 30%
D 解放なし
未達
充足率100%回復
年内平均充足率61%
国産も連動減9月〜半減
◆ 月別 充足率の推移(%)─ 4シナリオ同時・来年3月まで
横線=充足率100%(平時280万kL=政府0%節約で需要を満たす水準)。これを割った分が「物理的に必要な節約率」。下に行くほど不足が深い。4〜6月は前セクションの底打ち(72→80%)、7月以降が解放時期で分かれる
50% 60% 70% 80% 90% 110% 4〜6月 実績・見通し 7月以降=解放時期で分岐 充足率 100%(政府0%節約で満たす水準) 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 ②③④ 回復 101% D 解放なし 61% 9月 国産連動減
② 6末解放(30%) ③ 7末解放(10%) ④ 9末解放(30%) D 解放なし(30%・基本線) 充足率100%ライン

「政府0%節約のまま」では、回復しきる前に物理的に足りなくなる

5〜6月で底(72→80%)を脱しても、それは中東ゼロのまま代替で凌いだ8割。100%へ戻すには中東直接の回復が要る。最頻シナリオ②(6月末解放)でも、充足率が100%に戻るのは11月。それまでは物理的に供給が需要に届かない。下振れ(④+D=合計60%)では年内に100%へ戻らず、需要抑制が避けられない。さらにシナリオDでは、原油備蓄の枯渇に連動して9月以降は国産ナフサも半減し、充足率が61%まで二段階で押し下げられる。

政府の「節約不要」は9ヶ月合計の話。だが現場では、解放が遅れるほど減産が深く・長くなる。これがナフサショックの時間軸の正体だ。

APPENDIX

根拠・計算ロジック・出典

核心の式(原油版とパラレル/ナフサは備蓄対象外のため充足率が主軸)
充足率 = 月次供給合計 ÷ 平時280 / 必要節約率 = max(0, 1 − 供給合計÷280)

原油版が「備蓄という貯金を取り崩して時間を稼ぐ」のに対し、ナフサは「毎月の現金収支がそのまま赤字になる」。緩衝材が無いため、供給≒需要に収束する(供給72%と需要側ナフサ▲35.6%→稼働64%がほぼ一致)。

① 4ルート供給構造(平時280万kL/月)

② シナリオ確率(原油・JGB・CPIと完全統一・5/28校正)

②6月末解放=30% / ③7月末=10% / ④9月末=30% / D解放なし=30%(①5月末=0%)。「解放」は停戦合意ではなく、機雷掃海が始まり中東直接ナフサが物理的に戻り始める時期。下振れ(④+D)=60%。中東直接の回復カーブは業界予測平均(30→60→90→108→120)を解放月起点に適用(掃海6ヶ月版)。

③ 軽質偏重キャップ(西村論点・本プレゼンでは簡略)

代替原油が軽質(米シェール等)に偏ると、収率はむしろ上がる(重質16%/軽質25%/超軽質53%)が、日本の製油所はアラビアンライト最適化のため軽質過多でCDU塔頂凝縮がボトルネックになり処理量が頭打ち。ネットで軽質100%なら国産は平時110に届かず約93で頭打ち。本チャートは中質前提(キャップ無し)の素地。係数は感度確認用で、製油所別アッセイが入れば精緻化。

④ 確定値 / 暫定値の区別

⑤ 次の更新トリガー