このセクションで見せたい結論:全石油でならせば節約率は17%。だがその17%は均等に薄く広がってはいない。家庭のガソリンは▲7.5%で温存され、痛みは工場の原料=ナフサ(▲35.6%)に集中して押し付けられた。
| 用途 | 平時シェア | 節約率 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| ナフサ(工場の原料) | 22.2% | ▲35.6% | 実測5/29石油統計速報4月分でナフサ国内販売193.8万kL(前年比▲35.6%)確定。生産は90.7万kL(▲22.8%)。芳香族工業会4月速報もベンゼン▲36%・キシレン▲37%と整合 |
| LPG・潤滑油等(石化由来) | 12.4% | ▲35% | 推定石化誘導品の連鎖減産から類推。直接の月次統計なし。要確報検証 |
| 国際バンカー(船舶燃料) | 6.6% | ▲15% | 推定中東タンカー貿易停滞で日本港の給油需要減と類推 |
| 灯油・A重油・ジェット等 | 14.9% | ▲8〜12% | 推定季節要因・産業稼働による小幅減 |
| 軽油(物流) | 18.3% | ▲5% | 推定暫定税率廃止効果は継続もわずか減 |
| ガソリン(家計) | 23.7% | ▲7.5% | 実測5/29速報でガソリン国内販売310.3万kL(▲10.9%)確定。構造減(燃費改善・EV化)▲2〜3%を除いた真水は▲7〜8%。補助金で170円維持下でも家計が予防的節約に入った |
| 全石油 加重平均 | 100% | ▲17% | これが「全体の節約率17%」の正体。ガソリン▲7.5%とナフサ▲35.6%を平時シェアで加重平均した値。痛みの集中を覆い隠す平均値 |
※用途別シェアは経産省石油統計の平時構成。確報レベルで確定しているのはナフサ▲35.6%・ガソリン▲10.9%。LPG等は石化連鎖からの推定で、6月下旬の確報で検証予定。
全体17%という数字は嘘ではない。だが家計(ガソリン▲7.5%)は控えめな痛みで、工場(ナフサ▲35.6%)が削減の大半を被っているという構造を、平均値は見えなくする。家庭の生活が「平時通り」に見えるのは、痛みが見えない場所に集中して押し付けられているからだ。
では、なぜ痛みは家庭ではなく工場に集まったのか。理由は「ナフサには逃げ場が無い」こと ── 次のセクションへ。
このセクションで見せたい結論:痛みがナフサに集中したのは偶然ではない。ナフサは1987年の石油審議会決定で国家備蓄の対象外。原油のように貯金を取り崩して時間を稼ぐ緩衝材が無いため、供給不足が即・減産(▲35.6%)に直結した。
| トリック | 内容 |
|---|---|
| ① 国産990の継続前提 | 国産ナフサの継続を前提にするが、これは原油の精製に依存する。原油版で備蓄が枯渇すれば国産も止まる。政府254日→実効71日に圧縮済(原油版) |
| ② 川中製品在庫560の混入 | PE/PPペレットを「ナフサ4ヶ月分」に算入。だが化学プロセスは不可逆でペレットはナフサに戻らない。これは製品在庫であって原料在庫ではない |
| ③「中東以外3倍」の根拠 | 経産省は5月に米国・アルジェリア等から平時の3倍(135万kL超)まで拡大と説明。ただし継続性と単価上昇は別問題(4月の輸入単価は中東産より2割高) |
| ④ ナフサ自体は備蓄対象外 | 1987年「総合エネルギー調査会・石油審議会」決定でナフサは石油備蓄法の対象外。境野春彦氏(資源エネルギー庁有識者委員):「川中製品在庫を原料の在庫に単純加算しており正確でない」「現場では既に不足が生じている」 |
政府の「年越し可能」は9ヶ月合計の足し算であって、毎月の充足とは別の話。緩衝材が無いナフサは、不足が即・減産に直結する。だからこそ4月、政府が「節約不要」と言う一方で、現場のエチレン稼働率は67.3%(過去最低)まで落ちた。
では、このナフサ▲35.6%の打撃は、川下の業種にどう伝わるのか ── 次のセクションへ。
このセクションで見せたい結論:ナフサ供給が▲28%(充足率72%)絞られても、全業種が一律に減産するわけではない。ナフサ依存度が高い業種ほど、代替が効かず供給制約が直撃する。依存度88%の環式中間物にとって、これは事業継続そのものの問題になる。
この3段階は、それぞれ加重平均・用途別・業態別という別の指標であり、出所が違うので結論は動かない。ここまでが4月の実態だ。では供給は5月以降どう動いたのか ── まず一旦、底を脱する。次のセクションへ。
このセクションで見せたい結論:ここまでは4月の話。だが供給は4月の72%を底に、5月75%・6月80%へと持ち直していく。中東の穴を、米国・アルジェリア等の代替調達(5月に平時の3倍)と、原油6月調達の目処が立った国産ナフサの下支えで埋め始めたからだ。
| 調達ルート | 平時 | 4月 | 5月 | 6月見通し | 封鎖時の挙動・根拠 |
|---|---|---|---|---|---|
| 中東直接 | 120 | 0 | 0 | 0 | 実測ホルムズ封鎖で全量消失。タンカー出航ゼロ(Kpler船舶追跡)。シェア43%が丸ごと欠落したまま |
| 国産(原油連動) | 110 | 91 | 99 | 102 | 実測/見込み5/29速報で4月生産90.7万kL(▲22.8%)確定。原油6月調達は7割超の目処(米国産は前年比約8倍)が立ち、国産精製を維持できる見通し |
| 米国産 | 10 | 35 | 45 | 55 | 推定戦時拡大。日経5/28「米国からのナフサ輸入が5倍へ」。シェール由来で輸出余力大。ただし相場は3割高 |
| 非中東(その他) | 43 | 75 | 65 | 68 | 追跡アルジェリア・ペルー・豪・印等。中東以外からの輸入は5月に平時45万kL→135万kL超(約3倍)の見込み(経産省4/30) |
| 供給合計 | 280 | 201 | 209 | 225 | 充足率 4月72% → 5月75% → 6月80%。中東の穴を代替調達と国産が段階的に埋め、底(4月)を脱していく |
※4月は5/29速報の確定値(国産90.7+輸入110.3=201)。5月は暫定、6月は見通しで、6月下旬のJPCA5月実績・財務省貿易統計で確報化予定。ルート内訳(米国産・非中東の配分)は船舶追跡+貿易統計ベースの推定。
供給量は8割まで戻る見通しだが、代替調達には価格上昇(輸入単価は中東産より2割高・相場3割高)・輸送期間の長期化・品質適合・在庫の偏在・川下へのコスト転嫁という課題が残る。経産省自身、一部で「供給の偏り」「流通の目詰まり」が続くと明記している。量が戻っても、軽質偏重の原油は日本の製油所(中質最適化)で処理がボトルネックになり、国産ナフサが頭打ちになるリスクも残る。
そして何より、この5〜6月の底打ちは「中東ゼロのまま代替で凌いでいる」状態にすぎない。中東直接(平時120)がいつ戻り始めるか ── そこから先の回復の分かれ道を、次のセクションで見る。
このセクションで見せたい結論:5〜6月で底(72%→80%)を脱した先、充足率が100%まで戻るかは、封鎖された中東直接ナフサ(平時120)がいつ物理的に戻り始めるかで決まる。だが政府方針の「節約0%」を前提にすると、下振れシナリオ(④+D=60%)では年内に100%へ届かず、需要抑制が物理的に避けられない。
5〜6月で底(72→80%)を脱しても、それは中東ゼロのまま代替で凌いだ8割。100%へ戻すには中東直接の回復が要る。最頻シナリオ②(6月末解放)でも、充足率が100%に戻るのは11月。それまでは物理的に供給が需要に届かない。下振れ(④+D=合計60%)では年内に100%へ戻らず、需要抑制が避けられない。さらにシナリオDでは、原油備蓄の枯渇に連動して9月以降は国産ナフサも半減し、充足率が61%まで二段階で押し下げられる。
政府の「節約不要」は9ヶ月合計の話。だが現場では、解放が遅れるほど減産が深く・長くなる。これがナフサショックの時間軸の正体だ。
原油版が「備蓄という貯金を取り崩して時間を稼ぐ」のに対し、ナフサは「毎月の現金収支がそのまま赤字になる」。緩衝材が無いため、供給≒需要に収束する(供給72%と需要側ナフサ▲35.6%→稼働64%がほぼ一致)。
②6月末解放=30% / ③7月末=10% / ④9月末=30% / D解放なし=30%(①5月末=0%)。「解放」は停戦合意ではなく、機雷掃海が始まり中東直接ナフサが物理的に戻り始める時期。下振れ(④+D)=60%。中東直接の回復カーブは業界予測平均(30→60→90→108→120)を解放月起点に適用(掃海6ヶ月版)。
代替原油が軽質(米シェール等)に偏ると、収率はむしろ上がる(重質16%/軽質25%/超軽質53%)が、日本の製油所はアラビアンライト最適化のため軽質過多でCDU塔頂凝縮がボトルネックになり処理量が頭打ち。ネットで軽質100%なら国産は平時110に届かず約93で頭打ち。本チャートは中質前提(キャップ無し)の素地。係数は感度確認用で、製油所別アッセイが入れば精緻化。