OIL FLOW REPORT
統合版 2026.07.04 | WEEKLY INTELLIGENCE
01
OIL FLOW REPORT | 統合版 2026.07.04

“原油”価格は平時へ(▲34.8%
しかし、物流は非常時(平時の1/3)のまま

データ基準日:価格 7/3終値 / EIA週次確報 6/19(6/26は速報) / 日本備蓄 6/28(METI速報)
制作・分析:Naoki Nishimura  © 2026 Naoki Nishimura
02
全体構成

本レポートの8つの検証

01
結論 ― 安すぎる!?原油価格。ターゲットは8月下旬
価格は平時へ(▲34.8%)、物流は非常時(平時の1/3)のまま。
02
価格 ― 7週間で▲34.8%戦前推移に戻った
要因は6/17覚書による「正常化後」の先回り織り込み。戦争プレミアム$14〜18が消えた。
03
ホルムズ ― 通航は、まだ戦前の3分の1
価格とフローの乖離=市場の織り込み過剰分を測る。
04
需給 ― ギャップ −3%→−4%回復傾向
供給は▲13.6百万B/D欠けたまま。2027年予測は大幅供給過剰。
05
米国 ― 備蓄を切り崩すアメリカと、枯れない完成品
8月末〜9月上旬に臨界点250百万バレルへ。ガソリンは回避可能。
06
欧州 ― 臨界は回避。ただし2万便の削減は戻らず
削減の固定化であり、正常化ではない。
07
日本 ― 備蓄200日の中身
248日→200日。中東は平時の2割、「米国の顧客」へ。
08
時計と思惑 ― 8月に3つの期限が重なる
覚書60日・制裁免除8/21・SPR判断。誰の作品かを問い直す。
03
結論 | 1枚で言うと

安すぎる!? 原油価格ターゲットは8月下旬

6/17の米イラン覚書で戦争プレミアムが一気に剥落し、価格は戦前水準を割った。だが物流と在庫は非常時のまま ── 次の分岐は8月下旬に重なる。

価格は平時へ

WTIは週次高値$105.42(5/10週)から$68.78(7/3)へ、7週間で▲34.8%。アナリスト調査は開戦後初めて予想を引き下げた。

織り込み:ほぼ完全正常化

実態は非常時

ホルムズ通航は全船種で戦前の約3分の1。米SPRは1983年以来最低、OECD政府在庫は1990年以来最低、日本備蓄は200日へ減少。

物理:まだ3〜5割欠けたまま

8月に集中

覚書の60日期限(8月中旬)、制裁免除の期限(8/21)、SPR臨界点への到達(8月末〜9月上旬)。ターゲットは8月下旬に重なる。

ターゲット:8月下旬

価格の静けさは「終わった」の意味ではない。緩衝材の残量が歴史的低水準のまま、賭けが「停戦の持続」一本に乗った状態である。

04
検証 1 | 価格の真実

7週間で▲34.8% ── 戦前推移に戻った要因は「覚書」による「正常化後」の先回り織り込み

5/10週
WTI週次高値$105.42。ブレントは戦中$126超、物理原油は一時$150近辺の記録水準。
06.17
米イラン覚書(MoU)署名。60日停戦の時計が始動。イランは60日間の無料通航を容認。ブレントは4営業日で$17下落。
06.22
スイスでヴァンス副大統領がイラン代表団と会談。商業通航の再開が停戦枠組みの信頼醸成措置として確定。
06月末
サウジ輸出が日量630万バレル(今年2月比約9割)へ急回復。米国はイラン原油の制裁を8/21まで免除、イランもハーグ島から積出再開。
07.03
WTI$68.78で越週 ── 戦前(2月)水準を下回る。Q2は2020年以来最悪の四半期下落率。
WTI 週次終値($/bbl)── 4月〜7月
110 85 60 105.42 68.78 6/17 覚書 4/12 5/10 6/19 7/3
出所:Money Flow Explorer 週次系列(7/3終値まで・実測)。6/5週は祝日等によりデータ欠落週を除外して接続。
▲34.8%
WTI週次高値$105.42(5/10週)→$68.78(7/3)。下落の主因は6/17覚書による正常化期待の一括織り込み。
$14〜18/bbl
Goldman Sachsが推計した開戦後の戦争プレミアム。期近の上乗せは戦前水準まで消滅──「プレミアムは実質的に無くなった」が市場の共通認識に。
$84.50
Reuters調査(31名・6月末)の2026年ブレント平均予想。前月$90.44から、開戦後5カ月連続の引き上げを経て初の引き下げへ転換。
出典:Money Flow Explorer/Goldman Sachs推計/Reuters月次調査/Energy Intelligence(期近プレミアム)

下落の内訳は、プレミアム剥落が約半分、残りが「正常化後の需給」の先回り織り込み。つまり後半分は「まだ起きていない未来」を買っている。

05
検証 2 | ホルムズの実測 ── 織り込み過剰分を測る

価格は100%の正常化を織り込み、通航は3分の1

時点通航実績対戦前比
戦前(〜2月)実測全船種125〜140隻/日・原油約21百万B/D(世界の約2割)100%
封鎖期(3〜5月)実測1桁〜24隻/日。原油フローは5月に9.6百万B/Dまで低下〜15%
覚書直後(6/19)実測戦後最多の20〜25隻(Kpler)〜18%
7/1(Windward)実測往復43隻(入24・出19)。入航はイラン系船が支配的〜33%
タンカーのみ(直近7日平均)実測6.6隻/日・前週比▲32%(戦前推計約21隻/日)〜31%
直近の「出航急増」(木曜に石油・ガスタンカー35隻が出航=初の戦前レンジ・Morgan Stanley)は、戦時中に湾内へ閉じ込められた滞留タンカーの一斉吐き出しであり、定常フローの回復とは別物。LNG・肥料の通航はほぼゼロのまま、WTOの追跡でも「覚書は海運全体の広範な回復にまだ繋がっていない」。
1/3
全船種通航の対戦前比(7/1・43隻/日)。IRGC指定回廊のみ・60日間の暫定通航という条件付きの「再開」である。
2,300隻超
封鎖中に湾内外へ滞留した船舶(うち満載タンカー約255隻)。機雷除去と保険・乗員の正常化には数週間〜数カ月。
出典:Kpler/Windward(Vortexa)/TankerMap(AIS)/WTO Data Lab(AXSMarine)/IEA OMR 6月号

専門家も同じ乖離を指摘する ── INGは「売られすぎ」、Vanda Insightsは「下落はセンチメント主導で、市場は最良シナリオを先回りしている」。価格とフローの差分こそ、織り込み過剰の測定値である。

06
検証 3 | 絶対供給・絶対需要 ── 「実効3%」の現在値

需給ギャップ −3% → −4% → 回復傾向へ−3%(〜4月)→ −4%(5月)→ 回復傾向(6-7月)。2027年予測は大幅供給過剰

項目(IEA OMR 6月号)数値意味
世界供給(5月)94.5百万B/D戦前比▲13.6。2026年平均は▲3.9の102.4百万B/D
世界需要(2026年)▲1.1百万B/D2Q26実績は前年比▲5百万B/D。航空・石化が先行して縮小
中国+日本の輸入▲約6百万B/D両国とも約▲40%。「買わない」が価格の下支え(前号⑤章の構図が継続)
中国の総輸入(2→5月)▲4.8百万B/D
(約▲43%)
JPMorgan集計・2月比。IEAの「約▲40%」評価と整合。2020年パンデミック期(▲4.0)を超える過去最大級の落ち込み=世界需要圧縮の最大構成要素
中国のイラン産輸入(6月)65.4万B/D
(前月比▲50%超)
5月の約1.3百万B/Dから半減(Kpler)。ティーポット稼働は9年ぶり低水準、国有系は決済懸念で静観=再開後も「買わない」継続
大西洋圏の増産・輸出+3.5百万B/D米・ブラジル・カナダ・カザフ・ベネズエラが東側市場の穴を充当
在庫による清算▲3.8〜4.6百万B/D開戦以降の平均▲3.8、5月は▲4.6(▲143百万バレル/月)。EIAは2Q26を▲6.3と推計
需要側圧縮の主因は中国 ── 世界の需給ギャップ縮小(回復傾向)は、供給の回復と同時に中国が買わないことで成立している点に注意。
「実効負担」の算盤(更新):グロス喪失13.6 −大西洋増産3.5 −需要側圧縮〜5 ≒ 在庫取崩し4〜6百万B/Dで清算。前号の「実効3%」は5月時点で実効4〜4.5%へ悪化していたのが実態であり、6月後半の再開でこの差分が急速に縮小へ向かった ── これが価格急落の需給面の裏付け。
4〜4.5%
5月時点の「実効負担」(在庫取崩しベース・世界消費比)。前号想定の3%からやや悪化した後、再開で縮小局面へ。
50
EIA予測:OECD在庫の年末カバー日数。統計開始(2003年)以来の最低。「価格は戻っても在庫は予測期間中に戦前へ戻らない」。
出典:IEA Oil Market Report(2026年5月・6月号)/EIA Short-Term Energy Outlook(6/9)

2027年はIEA初見通しで供給+8百万B/D・需要+2百万B/D=一転して大幅な供給過剰。「不足の2026年」と「過剰の2027年」の断層が、先物カーブを押し潰している。

07
検証 4-1 | 米国SPR ── 床の再定義

備蓄を切り崩すアメリカ8月末〜9月上旬、一つの臨界点(250百万バレル)を迎える

前号の「法定下限252.4」は法源精査の結果、撤回・再定義する(下表)。現行の取り崩しペースは▲7〜9/週。

SPR残量 週次推移(百万バレル・EIA確報)
420 330 240 運用フロア 約250(水理限界) 415.4(2/27 開戦時) 331.2(6/19 確報) 325.7(6/26 速報) 2/27 4/24 6/5 6/26
実線=EIA週次確報(3月は放出決定前で横ばい・中間週は等間隔表示)/破線=速報(API推計含む・次回確報待ち)。週次ペースは5月中旬〜6月中旬▲8〜9、直近6/26週は▲5.5へ減速(覚書後の初週)。
水準性質
法定下限なし大統領の緊急認定下では放出量に残量下限なし(国際途絶では無制限)。「150」は1975年の初期充填目標で、2000年改正(P.L.106-469)で削除済み
運用フロア約250塩ドームのブライン置換という水理制約。ここを割ると払い出し速度が急減=価格抑制の弾薬が事実上尽きる。前号の「252.4」とほぼ同水準のため、チャートの床の位置は不変
政治的閾値第2弾承認当初承認172のうち約90を消化・133は契約済み。7月第1週前後に「追加放出=交渉失敗の自認」という政治判断が到来
325.7百万bbl
SPR残量(6/26週・速報)=1983年以来の最低。商業在庫込みの米原油総在庫731.7百万バレルは1984年10月以来の低水準。
×1.25
スワップ契約の返還倍率。「今1バレル→2027年以降に1.25バレル返還」。安値で放出し高値相当で回収する国庫運用であり、2027年の返還買いという将来需要を仕込んでいる。
出典:EIA週次確報(6/24公表)/42 U.S.C. §6234・§6241(EPCA)/CRS R42460/DOE・Semafor報道/GAO(6月)

時計の読み替え:現行ペースなら8月末〜9月上旬に床へ。だが覚書が持てば放出自体が止まり、時計は「止まるか、進むか」を停戦の持続だけに依存する。

08
検証 4-2 | 米国ガソリン ── 「2段階消滅」シナリオの検証結果

ガソリンは、回避可能原油産出国の強さを思い知る

増産・稼働率上限・記録的輸出の裏で、世界最大の産油国・精製国の完成品は枯れなかった。

2/6
戦前ピーク259.1百万バレル(前号の「259」)。
5/22
211.6。操業床(175〜185)まで残り約27〜37に接近し、輸出制限論が浮上した局面。
5/29〜6/19
反発して215.0 → 215.1 → 214.2 → 216.3。前号の「5月末反発・前年型なら床に着かない」シナリオが3週連続で裏付け強化
6月末
全米平均ガソリン価格は5/21の$4.55をピークに6/29$3.86へ低下。「$5.02(22年最高値)の政治臨界」は未到達のまま後退。
前号③章の「米国在庫の2段階消滅」は書き換える ── 1段目(完成品)は回避が確定方向。残る時計はSPR(2段目)のみで、その進退は停戦の持続に従属する。クッシングは操業下限20目前(6/10・21.6)まで枯れたが、前号の整理どおり単独では発火せず、価格の主役にならなかった。
216.3百万bbl
ガソリン在庫(6/19・EIA確報)。底211.6から反転し、操業床175〜185まで余裕約31〜41。
$3.86
全米平均ガソリン価格(6/29)。ピーク$4.55から6週で低下 ── ただし戦前$2.98比では依然+約3割。
出典:EIA週次確報(WGTSTUS1)/AAA全米平均

「ガソリンで折れる夏」は来なかった。米国の臨界点はSPRの残量と、第2弾放出の政治判断へ一本化された。

09
検証 5 | 欧州ジェット ── 前号「7-8月臨界」の検証結果

臨界は回避。ただし2万便の削減は戻っていない

3〜4月
中東からの欧州向けジェット燃料輸入が33万B/D→6万B/Dへ崩落(欧州輸入の6〜7割を占めた供給源がほぼゼロに)。価格は約2倍、ARA在庫は戦前比▲50%で多年最低へ。IEA事務局長「残りおよそ6週間」と警告。
4〜5月
先回りの需給調整 ── 世界で5月便13,000便・200万席削減。Lufthansa2万便(10月まで)、KLM160路線、SAS約1,000便、Turkish 18路線停止。製油所は「max jet first」(Total CEO)で得率を10%→13%へ。
5〜6月
米国のジェット燃料輸出が記録的水準(一時44.2万B/D)へ急増し、輸入の穴を部分充当。GS警告の「23日閾値割れ→6月」に対し、正式な不足宣言はEU全域で発動されず
7月入り
評価は「タイトだが機能している」(業界コンセンサス)。燃料切れ由来の大量欠航なし。ただし夏スケジュールは削減後のまま固定、運賃・サーチャージは高止まり。
▲930万席
6〜9月に世界11市場で削減済みの座席数(Cirium)。「回避」の実体は需要側を先に削った結果であり、正常化ではない。
23日
IEAの危機閾値(在庫カバー日数)。GSは6月割れを予測したが、削減+代替輸入+覚書のタイミングで底割れシナリオは後退。
出典:IEA/Cirium・ICIS(6/2)/Goldman Sachs・SocGen各リサーチ/CNBC・Forbes・FT報道

前号の「最初に折れる完成品」は、折れる前に翼を畳んだ。臨界回避=削減の固定化であり、欧州の夏は「小さくなった空」で成立している。

10
検証 6 | 日本 ── 備蓄200日の中身

公式200日。ただし4カ月で▲48日、中東は平時の20%程度

区分(6/28時点・METI速報)日数状態
国家備蓄106日3月に第1弾30日分(約850万kL・制度創設以来2度目)、5月上旬から第2弾20日分を放出中
民間備蓄91日義務量を70日→55日へ15日分引き下げ継続(民間在庫の市場放出を可能化)
産油国共同備蓄3日
合計200日1月末248日から▲48日。IEA協調では約8,000万バレルを放出(IEA全体4億バレルの2割)
回復しても平時に届かない差分が、毎月の備蓄取り崩し(▲48日/4カ月≒月12日ペース)として現れている。代替調達は5月に前年比約6割へ(政府説明)── その中身は下表・下図のとおり。
▲48
備蓄日数の減少(248→200日・1月末→6/28)。「まだ200日ある」ではなく「4カ月で2割を使った」と読む。
6割
代替ルートで確保できた原油の対平時比(5月・政府説明)。残り4割が備蓄と需要側で清算されている構図。
出典:資源エネルギー庁「石油備蓄の状況(速報)」7/1公表/METI 4/15発表/NRI試算(5/1)

調達の中身(万kL/月・前号⑥章の系列を継続) ── 中東系は平時の2割(直行60+バイパス180)、穴は米国・南米が埋めた

ルート平時4月5月平時比封鎖時の挙動
中東直行(ホルムズ経由)1,260060▲95%実測平時の8割超を占めた生命線が、ほぼ消失したまま
中東バイパス(サウジ/UAE陸送)110180新設追跡ヤンブー(紅海)・フジャイラ(ADCOP)経由。想定以上に稼働
米国(ガルフ)5080150×3.0追跡5月VLCC9隻=1,670万バレル。喜望峰・パナマ経由
南米(ブラジル等)1525175×11.7推定5月に急拡大。大西洋圏シフトの主力
その他(アフリカ・中亜・STS等)202192294×1.5推定STS110は在庫流動化=持続性低
合計1,52740785956%実測4月確報・5月は船舶追跡暫定
物量の比較 ── 平時 vs 5月(万kL/月・積み上げ)
平時 中東直行 1,260 計 1,527 5月 計 859(平時の56%) バイパス180 米国150 南米175 その他294 直行60 中東直行 中東バイパス(陸送) 米国 南米 その他
読み:5月の中東系は直行60+バイパス180=240(構成比28%)── 中東産は陸送バイパスで細く繋がる形。出所:前号⑥章(石油統計速報5/29・Bloomberg船舶追跡)。倍率・構成比は同表からの算出値。6月分は次回統計で更新。
×3.0

米国

50 → 150万kL。VLCC9隻=1,670万バレルを喜望峰・パナマ経由で搬入。さらにナフサは米国産5倍

平時比(船舶追跡)
×11.7

南米

15 → 175万kL。ブラジル等が5月に急拡大。米国と同じ大西洋圏=同じ航路・同じ市場圏からの調達。

平時比(推定)
×5.0

采配圏 計

米国+南米で65 → 325万kL、構成比は4% → 38%へ。生命線の付け替え先は、ほぼ全量が米国の采配圏である。

→ P12 仮説A「顧客化」の物量証拠

「米国の顧客」化はスローガンではなく物量(×5.0・構成比4%→38%)である ── これが次章・思惑仮説Aの最重要傍証となる。波及の経路は封鎖の長期化から、停戦の持続性と米国の輸出采配へ移った。

11
検証 7 | 時計の再設定 ── 前号「7-8月臨界」の総括と、次の分岐

物理の臨界は遠のき、期限の臨界が8月に集中する

前号タイムラインの検証結果(答え合わせ)

前号の予定表結果
EUジェット23日割れ(6月下旬)回避 ── 削減2万便+米輸入+覚書。不足宣言なし
クッシング操業下限接触(7月初)接触圏(6/10・21.6)まで枯れたが発火せず ── 前号の「単独では動かない」整理どおり
ガソリン$5.02更新圏(7月末〜8月)後退 ── ピーク$4.55(5/21)→$3.86(6/29)
SPR床到達(8月中旬〜9月下旬)進行中 ── ▲9/週実勢なら8月下旬。ただし覚書持続なら時計停止

新しい時計 ── 期限の三点集中+二つの遠景

7月第1週〜
SPR第2弾放出の政治判断。追加放出は「交渉失敗の自認」と映るジレンマ(Atlantic Council)。
8月中旬
覚書の60日交渉期限。恒久合意か、期限切れか。イランはオマーンと共同の海峡管理機構(Persian Gulf Strait Authority)で主導権を主張。
8/21
イラン原油の米制裁免除の期限。延長・恒久化・失効のいずれかが、イラン供給の蛇口を直接決める。賭け金は洋上に浮く買い手未定の5,800万バレル(7/1・Vortexa/Bloomberg、90%超が行き先未定)── 世界供給の約0.56日分、ホルムズ平時通過量の約2.8日分、日本の原油輸入の約23日分(分母:世界103・ホルムズ21百万B/D、日本輸入250万B/D換算)。期限までに市場へ流れれば期近の重石、失効なら再凍結+プレミアム復元 ── 影響は量の割に二値的
11月
米中間選挙。ガソリン価格と「戦争か平和か」が争点化。再エスカレーションの政治的誘因と抑止が交錯。
2027年
SPR返還買い(×1.25)開始+IEA見通しの供給過剰8百万B/D ── 「過剰と買い戻し」がぶつかる年。

週末にも船舶攻撃→米報復の応酬が起きた。60日停戦は「開いた海峡」ではなく「開けてもらっている海峡」 ── 期限が来るたび、剥がれた分のプレミアムが戻り得る。

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検証 8 | 思惑仮説(解釈レイヤー・紫=仮説表記)

「暴落」もまた、誰かの作品ではないか

◆ ここからは仮説の章。前章までの一次情報・実測値を土台にした解釈であり、事実と区別するため紫で表記する。
仮説A(強化) ── 米国:「エネルギー覇権の再構築」は実装段階へ

前号の仮説Aに、今号で3つの実装証拠が加わった。第一にスワップ×1.25。安値になる前に放出し、2027年に1.25倍で回収する国庫運用 ── 放出は「価格対策」であると同時に「逆張りの資産運用」として設計されている。第二に制裁免除の設計(General License X・期限8/21)。ドル決済の解禁・イラン中銀への直接入金に加え「収益は米農産物の購入へ」という使途指定つき ── 蛇口だけでなくレジと売上の使途まで米国の設計であり、財務長官は「中国以外の買い手はいない」と市場に語って買い手の様子見を維持する。第三に顧客化の完成。日本の調達は米国采配圏が×5.0・構成比4%→38%(P10)、米国のアジア向け輸出は約3倍のまま ── 日本・韓国・欧州はこの4カ月で米国産原油・燃料の顧客となった。事実、イランが日本の元売りへ購入を打診(7/3・共同)した際、日本側の回答は「海峡の航行安全が不十分」── 采配圏の顧客は、覚書が許しても動かなかった。価格の暴落すら、覇権の完成を告げる「静けさ」として整合する。

仮説B(継続) ── 中国:安値の収穫期に入った

「買わない」で価格を押し下げた中国は、6月のイラン産輸入を前月比半減の65.4万B/D(Kpler)まで絞りつつ、7/1にはハーグ島からの割安カーゴ(約199万バレル・Vortexa)だけを拾った。総輸入も2〜5月で▲4.8百万B/D(JPMorgan・パンデミック期超え)。Morgan Stanleyの供給過剰予想は「中国の低輸入の継続」を前提に置く ── つまり中国が買い出せば過剰は消える。期限(8/21)が近づくほどイランのディスカウントは深くなる。安く買う時期を選ぶ主導権は、いまも北京の側にある。

反対仮説(併記・前号から維持):一連の動きは思惑ではなく「価格・供給環境への経済合理的反応」との指摘(Reuters・Russell氏ほか)。本章は断定ではなく、8月の三点期限で仮説の当否が検証可能になる、という位置づけ。新規傍証の出典:Bloomberg/Vortexa(7/1洋上在庫)・Kpler・JPMorgan・CNBC(General License X詳細)・共同通信(7/3・日本打診)。

検証方法は明快 ── 8/21の制裁免除を延長するか、失効させるか。蛇口を握り続ける選択をすれば仮説Aは強まり、手放せば弱まる。

13
結び | 日本にとっての意味

価格の静けさのにあるものとは!?

7週間で▲34.8%、見出しは「急落・正常化」に変わった。だが実測が示す現在地はこうである ──

安心は前借り

通航は3分の1、LNG・肥料はゼロのまま。価格が買い戻したのは実態ではなく「停戦が持つ」という前提である。

前提が崩れれば戻るのは早い

空の緩衝材

米SPRは1983年以来、OECD政府在庫は1990年以来の低水準、日本は200日。次の一撃に使える弾は、この4カ月で大きく減った。

同じ危機は二度は吸収できない

8月が試金石

覚書60日期限(8月中旬)と制裁免除期限(8/21)。停戦の設計図が本物かどうかは、この夏のうちに判明する。

検証期限つきの平和

構造は変わっていない ── 変わったのは価格だけである。緩衝材が薄くなった世界では、次の変動はより速く、より大きく現れる。それが本号の結論であり、資産防衛の前提条件である。

出典一覧:IEA Oil Market Report(2026年5月・6月号)/EIA Weekly Petroleum Status Report・STEO/資源エネルギー庁・METI公表資料/42 U.S.C.(EPCA)・CRS R42460/Kpler・Vortexa(Windward)・TankerMap・WTO Data Lab/Reuters・Bloomberg・Energy Intelligence・Semafor・Cirium・CNBC・Fortune 各報道。数値はすべて上記一次情報・報道の実測・公表値に基づく。速報値(6/26週等)は確報での更新対象。
本資料は情報提供を目的とし、特定の投資行動を推奨するものではない。 © 2026 Naoki Nishimura