OIL FLOW REPORT
統合版 2026.07.20 | WEEKLY INTELLIGENCE
01
OIL FLOW REPORT | 統合版 2026.07.20

停戦は崩れた
価格は“安すぎた分”を取り返しに来た(WTI +20%

データ基準日:価格 WTI 7/17終値$82.49(Money Flow Explorer)/ Brent 7/19 $88.10(straits.live)/ SPR 7/10確報316.5(EIA 7/15公表)/ 通航 7/19 straits.live・TankerMap
制作・分析:Naoki Nishimura  © 2026 Naoki Nishimura
02
全体構成

本レポートの8つの検証前号(7/4)の「安すぎる原油・ターゲット8月下旬」は、わずか2週間で価格面が的中した

01
結論 ― 前号の「織り込み過剰」2週間で解消した
停戦崩壊でプレミアムが戻り、価格は$68→$82へ。次の焦点はSPRの床。
02
価格 ― 底$68.78から+20%、Brentは$88へ
前号が測った「価格とフローの乖離」が、崩壊で急速に埋まった。
03
ホルムズ ― 通航は再び壊滅(約10隻/日)
6/17覚書は失効。7/8トランプ「停戦は終わった」。全面衝突条件に復帰。
04
需給 ― 縮小しかけたギャップが再拡大
EIA STEO 7月号(7/1完成)は崩壊前の楽観前提で既に陳腐化。
05
米SPR ― 316.5百万バレル。250割れはいつか
本号の主題。実勢ペース減速で8月末は約275〜295。再加速なら9月初旬。
06
完成品 ― ガソリンの回避は維持、ただし再上昇圧力
前号「2段階消滅」の1段目回避は継続。残る時計はSPR一本。
07
日本 ― 備蓄200日、中東直行はほぼゼロへ再逆戻り
米国の采配圏への依存が、崩壊で一段と鮮明に。
08
時計と思惑 ― 8月の三点期限は「前倒しで崩壊」した
覚書60日・制裁免除8/21を待たず、7月上旬に決着。誰の作品かを問い直す。
03
結論 | 1枚で言うと

安すぎた原油は、取り返しに来た次の焦点はSPRの床(250〜300百万バレル帯)

前号(7/4)は「価格は平時へ戻ったが、物流と在庫は非常時のまま=織り込み過剰」と測った。2週間後、7/8に停戦(6/17覚書)が崩壊し、剥がれていたプレミアムが戻った。乖離は埋まり、価格は$68.78→$82.49(+20%)。今度は在庫の床が主役になる。

乖離は崩壊で埋まった

WTIは底$68.78(7/3)→$82.49(7/17)へ+20%。Brentは$88.10(7/19)。前号が測った「価格とフローの差=織り込み過剰」が、停戦崩壊で急速に清算された。

前号の測定は的中

停戦は前倒しで崩壊

7/8トランプ「停戦は終わった」。米は制裁再発動・港湾封鎖再開・6回の空爆。イランは湾岸米基地を攻撃、7/17ヨルダンで米兵2名死亡。通航は約10隻/日(平時約88)へ。

物理:再び壊滅

SPRが最後の緩衝材

米SPRは316.5百万バレル(7/10・1983年以来最低)。運用限界帯250〜300まで残り約16〜66。実勢ペースが減速する中、崩壊が放出を再加速させるかが分岐。

300割れ:中心8月上旬/250は秋〜再加速次第

前号の問い「安すぎないか?」の答えは出た ── 安すぎた。次の問いは「最後の緩衝材(SPR)は、いつ物理的な床に触れるか」である。

04
検証 1 | 価格の答え合わせ ── 「織り込み過剰」は解消したか

底から+20% ── 乖離は崩壊で埋まった前号が測った「価格とフローの差」が、停戦崩壊で急速に清算

07.03
前号の基準日。WTI$68.78で越週 ── 戦前(2月)水準を下回る。市場は「完全正常化」をほぼ100%織り込んでいた。
07.06〜07
ホルムズで船舶攻撃が再燃。7/6以降9隻以上が被弾。米が新たな空爆を開始。
07.08
トランプ「停戦は終わった」。米はイラン原油制裁を再発動。Windward「開戦以来最大級のエスカレーション/全面衝突条件に復帰」。
07.14
米が港湾封鎖を再開、通航料20%要求は撤回(湾岸諸国の対米投資で代替)。WTI$79.34/Brent$84.73。
07.17〜19
WTI$82.49(7/17)、Brent$88.10(7/19)。1ヶ月ぶり高値、開戦前比+約19%。VIXは18.8へ上昇。
WTI 日次終値($/bbl)── 6月末〜7月17日
85 76 67 68.55(7/6 底値圏) 82.49(7/17) 7/8 停戦崩壊 7/6 7/10 7/17
出所:Money Flow Explorer 日次系列(7/17終値まで・実測)。7/6 $68.55 → 7/13 $78.14(停戦崩壊後の急伸)→ 7/17 $82.49。確定
+20%
WTI底$68.78(7/3)→$82.49(7/17)の反発率。前号が「未来を買っている」と指摘した部分が、崩壊で現実に転じた。確定
$88.10
Brent(7/19・straits.live)。6/15以来の高値、開戦前比+約19%。週間で+10〜14%(7/13-17)。確定
$14〜18/bbl
前号で「消えた」としたGS推計の戦争プレミアム。崩壊でこの上乗せが戻り始めたのが今回の価格反発の中核。推定
出典:Money Flow Explorer(WTI日次)/straits.live・Al Jazeera・TradingEconomics(Brent)/CNBC(7/14-17各報道)

前号の結論は2週間で答え合わせが済んだ ── 「価格とフローの乖離=織り込み過剰」は、停戦崩壊という最短経路で埋まった。市場が買っていた「正常化後の未来」は、来なかった。

05
検証 2 | ホルムズの実測 ── 「開けてもらっていた海峡」は、また閉じた

通航は再び壊滅(約10隻/日)前号の「43隻/日・戦前の1/3」から、全面衝突条件へ逆戻り

時点通航実績対戦前比
戦前(〜2月)実測全船種約88隻/日・原油約21百万B/D(世界の約2割)100%
覚書後ピーク(7/1前後)実測往復33〜43隻/日。ただし主因は滞留タンカーの吐き出し〜38%
崩壊直後(7/8)実測13隻(Kpler・水曜)。前週平均33/日から急減〜15%
直近(7/19)実測約10隻/日(straits.live)=「実質再閉鎖」〜11%
タンカー日次(TankerMap)追跡7月中旬は1桁〜数隻/日の積出に低下(AISは下限値)危機水準
6/17覚書は失効。イランは船舶を自国領海側の回廊へ強制しようと攻撃を継続、米は港湾封鎖を再開した。7/6以降9隻以上が攻撃を受け、7/18には機雷で2隻が被弾(「重大なエスカレーション」)。イランはフーシに紅海封鎖の準備を指示 ── サウジの陸送迂回路(紅海ヤンブー)まで脅かされ始めた。確定
約10隻/日
全船種通航(7/19・straits.live、平時約88隻)。「開いた海峡」は60日を待たず再び閉じた。確定
6
停戦崩壊後の米空爆の回数(7/17時点・6夜連続)。イランは湾岸米基地を反撃、7/17ヨルダンで米兵2名死亡確定
出典:straits.live(7/19)/TankerMap(AIS日次)/Kpler(7/8・CNBC)/Windward/IMO・CENTCOM各発表

前号の警句が現実になった ── 「開いた海峡」ではなく「開けてもらっていた海峡」。期限(8月中旬)を待たず、停戦の持続という賭けは7月上旬に外れた

06
検証 3 | 需給 ── 縮みかけたギャップが、再び開く

需給ギャップは−4.5〜5%へ再拡大覚書時の〜3%から5月ピーク並みへ戻る ── IEA 7月号は「沈静化前提」で楽観に留まる

実効ギャップ(=在庫取崩し ÷ 世界需要)は、覚書時の縮小(〜3%近傍)から、7/8再封鎖で−4.5〜5%へ再拡大の見込み。IEA 7月号が映す6月の供給回復(+4.1→98.8)は「再燃した敵対行為の速やかな沈静化」が前提であり、再封鎖はこの回復分を剥がす方向に働く。

指標(=需要104比の%)数値意味・出所
実効ギャップ(本号試算)−4.5〜5%覚書時〜3% → 7月再封鎖で5月ピーク並みへ。在庫取崩し約5 mb/d推定
IEA 在庫取崩し(開戦以来平均)3.8 mb/d原油2.4+製品1.4。OECD政府在庫は1990年12月以来最低=約3.7%(IEA 6月号)確定
IEA 世界原油不足(2Q/3Q)約4.5 mb/d大西洋圏は同期間むしろ黒字=約4.4%(IEA 5月号)確定
世界供給(6月・IEA 7月号)98.8百万B/D+4.1回復も戦前比▲9.4。回復は「沈静化前提」=再封鎖で剥落確定
ホルムズ通航(7/8以降)33→約10隻/日6月の回復分が再喪失。供給側の穴が再び拡大確定
EIA STEO 2Q 在庫取崩し▲6.3 mb/d最大の指標=約6%。ただしSTEO 7月号は覚書前提で既に陳腐化(次回8/11)要更新
実効ギャップの算盤(7月更新):グロス喪失〜13.5(6月▲9.4+回復剥落4.1)− 大西洋増産〜3.5(米は記録的13.86)− 需要側圧縮〜5 ≒ 在庫取崩し約5 mb/d = 需要104比 約4.8%。単一値に潰さず、控えめなIEA在庫取崩しベース(3.7%)〜EIAベース(6%)の幅で捉える。※同じ%でも痛みは増す ── 清算する在庫(SPR316.5・日本200日)が5月より薄い。推定
−4.5〜5%
7月再封鎖後の実効ギャップ(在庫取崩し÷世界需要)。覚書時の〜3%から、5月ピーク(−4〜4.5%)並みかやや上回る水準へ。推定
▲9.4百万B/D
6月世界供給の戦前比(IEA 7月号)。6月は+4.1回復したが、その回復は再燃の沈静化が前提 ── 7/8再封鎖で逆回転。確定
出典:IEA OMR 7月号(6月供給98.8・▲9.4)/6月号(在庫取崩し3.8)/5月号(原油不足4.5)/EIA STEO・週次確報/EIA生産

前号は「不足の2026/過剰の2027」の断層が先物カーブを潰していると整理した。再封鎖はこの断層のうち「不足の2026」を再び前面に押し戻し、実効ギャップを5月ピーク並みの−4.5〜5%へ引き戻した ── 過剰の遠景は、正常化の前提ごと後ろへずれた。

07
検証 4-1 | 米国SPR ── 本号の主題:250割れはいつか

316.5百万バレル。床まで残り16〜66前号「8月末〜9月上旬に250」は、実勢ペース減速で後ろ倒しへ ── ただし崩壊が再加速させ得る

Naoki の問い「8月末に250百万バレルを割るか」に、実測で答える。結論を先に言えば ── 実勢ペースなら8月末は約275〜295百万バレルで、250は割らない。ただし運用限界帯の上端300は中心8月上旬(幅7月末〜8月下旬)に割れる見込みで、これが最も近い分岐点。崩壊が放出を再加速させれば、250も9月初旬へ前進する。

SPR残量 週次推移(百万バレル・EIA確報)+ 250割れ3シナリオ・300割れ時期
420 380 340 300 260 運用限界帯 上端300(払出困難の入口) 床 250(水理限界) 実測 予測 415.4(2/27) 316.5(7/10) ▲3/週|300割れ8月下旬 ▲5/週|300割れ8月上旬 ▲8-9/週|300割れ7月末 2/27 5/8 6/26 7/10 8月末
実線=EIA確報(実測):415.4(2/27)→397.9(4/24)→384.1(5/8)→340.3(6/12)→316.5(7/10)。破線=8月末までの3ペース試算、300線上の3ドット=各ペースの300割れ点。直近3週の実勢は▲5.5→▲6.2→▲3.0で減速。次回7/22(7/17週)が最初の答え合わせ。予測は試算
週次ペース300割れ250到達8月末
▲3/週(減速継続)8月下旬12月中旬約295
▲5/週(直近3週平均)8月上旬10月中旬約282
▲6/週(やや加速)7月末9月下旬約274
▲8〜9/週(本格再加速)7月末9月初旬約255〜260
「300割れ」の読み方:中心は8月上旬(幅=7月末〜8月下旬)で、250割れ(9月初旬〜秋)より1〜2ヶ月早い、より近い分岐点。300は“崖”ではなく“入口” ── 塩ドームの払出速度が落ち始め、それが米国の価格抑制力(弾の速さ)の減衰として価格へ波及する(物流の目詰まりではない)。ただしDOEが健全性保全のため義務売却停止で自主減速させる余地もあり、その場合は後ろ倒し。最初の答え合わせは7/22公表の7/17週予測は試算
316.5百万bbl
SPR残量(7/10確報・7/15公表)=1983年4月以来の最低。前号325.7(6/26)から週次▲3.0で到達。確定
250〜300
運用限界の帯域(OilPrice)。ここを下回ると塩ドームの水理制約で払出効率が低下。上端300まで残り約16.5 ── 実勢▲5/週なら8月上旬に割れる(250割れより1〜2ヶ月早い)。確定/推定
出典:EIA週次確報(7/15公表・WCSSTUS1)/OilPrice・Rigzone・TradingEconomics(7/16)/DOE放出計画

Naoki の問いへの答え ── 実勢ペースでは8月末に250は割らない(約275〜295)。ただし「払出が難しくなる帯」の入口(300)は中心8月上旬に割れる ── これが250割れ(秋)より1〜2ヶ月早い、最も近い分岐点。真の分岐は7/22公表の7/17週で、崩壊が放出を再加速させたかどうかが判る。

08
検証 4-2 | 米国ガソリン ── 「回避」は維持、ただし再上昇圧力

完成品の臨界回避は継続残る時計はSPR一本。ただし原油再騰で価格の重石は戻る

前号「2段階消滅」の1段目(完成品)回避は今も有効。だが原油の再騰と、ガルフ地区在庫の逼迫(2017年以来最低)が、夏の需要期に価格を再び押し上げる。

5/22
ガソリン在庫の底211.6。操業床(175〜185)まで約27〜37に接近した局面。
6月末
反発して216.3(6/19)。全米平均価格は5/21の$4.55→6/29$3.86へ低下。「$5.02の政治臨界」は未到達。
7/10
ガソリン在庫▲1.5(5年平均比約▲8%)。ガルフ地区は2017年以来最低(Saxo)── 夏の需要期の地域逼迫が継続。
7月中旬
原油の再騰(WTI$82)で、完成品価格の下押しは止まり再上昇圧力へ。臨界回避は維持だが、家計負担の再増は不可避。
論点の位置づけは前号どおり ── 米国の臨界点はSPR(2段目)に一本化。1段目(完成品)は増産・稼働率・輸出で凌いだが、原油の再騰は「回避」の余裕を削る。クッシングは7/10に微増(+0.43)で操業下限からは距離を確保。確定
96.2%
製油所稼働率(7/10週・EIA)。夏需要期のフル稼働で完成品を供給 ── 産油国・精製国の底力は健在。確定
2017年以来最低
ガルフ地区ガソリン在庫(Saxo・7/10)。全国は回避でも、地域の逼迫は夏の価格リスクとして残る。確定
出典:EIA週次確報(7/15・WGTSTUS1)/Saxo Bank(Ole Hansen・7/16 X)/AAA全米平均

「ガソリンで折れる夏」は依然来ていない。だが原油再騰で価格の重石が戻り、米国の唯一の時計=SPRの床が、いよいよ主役になる。

09
検証 5 | 欧州ジェット+紅海 ── 迂回路そのものが脅かされ始めた

臨界回避は維持、ただし紅海リスクが新たに点灯サウジの陸送迂回路(紅海ヤンブー)に、フーシ封鎖の脅し

4〜6月
欧州は先回りの需給調整で臨界回避 ── 世界11市場で6〜9月に約930万席削減(Cirium)。米ジェット燃料の記録的輸出が穴を部分充当。
7月入り
評価は「タイトだが機能」。燃料切れ由来の大量欠航はなし。ただし夏スケジュールは削減後のまま固定。
7/16〜17
イランがフーシに紅海封鎖の準備を指示(報道)。サウジのペトロライン(紅海ヤンブー、7百万B/D)というホルムズ迂回の生命線が、出口側で脅かされ始めた。
7/18
オマーン沖でロシア燃料輸送の制裁船が油濁の疑い、黒海CPC積出タンカーもドローン被弾 ── 迂回路・別海域にもタンカーリスクが拡散
7百万B/D
サウジ・ペトロライン(東西パイプ)の最大能力。ホルムズを迂回する陸送の主力だが、出口の紅海が封鎖されれば意味を失う。確定
▲930万席
6〜9月に世界11市場で削減済みの座席数(Cirium)。「回避」の実体は需要を先に削った結果であり、正常化ではない。確定
出典:Cirium・ICIS/CNBC・TradingEconomics(紅海・フーシ)/Bloomberg(7/18 CPC・オマーン沖)

前号は欧州の臨界回避を「削減の固定化」と整理した。今号の新リスクは ── ホルムズを迂回するための紅海ルートそのものが、封鎖の脅しの射程に入ったことである。

10
検証 5-2 | アジア・欧州の航空便 ── 夏休みピークの生活直撃(6月以降)

「回避」の偽りの夜明けを、7/8崩壊が塗り替えた運賃・サーチャージ・欠航が、夏休みシーズンの各国の家計に直接届き始めた

地域・社(6月以降)直近の生活影響区分
アジア(7月中旬)1日で欠航約350・遅延3,533(星・日・印・中・サウジ・尼・馬)。ジェッダ最多欠航、Saudia138便、JAL・Air China・Akasaに波及確定
Air India長距離約100便を7月まで削減(ロンドン・NY・パリ・シドニー)。採算割れ路線を縮小確定
日本(JAL)北米線 燃油サーチャージ$351(前回$164の約2倍)。「異常な高値」と説明確定
欧州(Lufthansa)夏に2万便削減、追加燃料コスト約$20億。伊北部4空港では短距離便に給油制限(1時間分未満)確定/報道
米国(国内線)夏の国内運賃が2022年以来最高。United/Delta/American は6-9月に2〜3%減便確定
世界(3-6月累計)戦前比で15万便超が削減済み。IATAは業界利益半減=パンデミック以来最悪と警告確定
弧の読み方:3-4月の急性期(IEA「残り6週間」)→ 6月は覚書=Hormuz再開で「回避」ムード(Lufthansa・Ryanair「供給リスクほぼゼロ」/Fortune「懸念は顕在化せず」)へ。だが7/8の停戦崩壊が、夏休みの最需要期にこの安心を塗り替えた。燃料は開戦前比2倍超のまま。確定
+105.7%
欧州ジェット燃料の前年比(IATA)。運賃はIATA試算で平均+8〜9%、長距離はさらに大きい ── 移動コストが家計に直接転嫁。確定
鉄道・近場へ
高運賃を受け、旅行者は鉄道・近距離・ステイケーションへシフト(CNBC)。「遠出を控える」行動変容が各国で観測。確定
出典:Travel and Tour World(アジア7月中旬)/Wego・Yahoo Finance(JAL$351)/CNBC(Lufthansa 2万便・$20億/適応行動)/Fortune(米国内線・IATA利益半減)/Gulf News(伊空港給油制限)/Newsweek(15万便)/IATA

原因は一貫している ── 各国は在庫(ジェット燃料備蓄)を切り崩しながら夏を運営している。崩壊でその取り崩しが再加速すれば、運賃・サーチャージ上昇はサービス価格→CPI→家計へと、当社の伝播ライン上を進む。

11
検証 6 | 日本 ── 備蓄200日の中身と、崩壊後の調達

公式200日。中東直行は再びゼロ圏覚書で細く戻りかけた直行ルートが、崩壊で再消失

区分(6/28時点・METI速報)日数状態
国家備蓄106日第1弾30日分+第2弾20日分を放出中確定
民間備蓄91日義務量を70日→55日へ引き下げ継続確定
産油国共同備蓄3日
合計200日1月末248日から▲48日。月12日ペースの取崩し確定
前号は「覚書で中東直行が細く再開(5月60万kL)」と記録した。7/8の崩壊でこの直行分は再び消失方向。7/3にはイランが日本の元売りへ購入を打診したが、日本側は「航行安全不十分」で見送り ── 崩壊はこの判断を追認した。代替調達は米国・南米(大西洋圏)依存が一段と強まる。推定:6月分の直行回復は次回統計で下方修正の可能性。
▲48
備蓄日数の減少(248→200日・1月末→6/28)。「まだ200日ある」ではなく「半年で2割を使った」と読む。崩壊で取崩しは再加速方向。確定
×5.0
米国采配圏(米+南米)の調達倍率(前号5月・構成比4%→38%)。崩壊で中東直行が再消失し、米国依存はさらに高まる。確定/推定
出典:資源エネルギー庁「石油備蓄の状況(速報)」7/1公表/METI発表/前号⑥章の調達系列
再消失

中東直行

覚書で細く戻った直行(5月60万kL)は、崩壊で再びゼロ圏へ。生命線の付け替えは巻き戻せない。

崩壊の直接影響
継続

大西洋圏

米国(×3.0)・南米(×11.7)の大西洋圏シフトが主軸として継続。崩壊で依存度はさらに上昇。

米国采配圏
新リスク

紅海バイパス

サウジ陸送→紅海の迂回路が、フーシ封鎖の脅しで不確実化。日本の調達前提に新たな影。

要監視

日本の現在地は「200日ある」ではなく ── 半年で2割を使い、生命線を米国采配圏へ付け替えた状態。崩壊は、その付け替えを不可逆に固定する方向に働く。

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検証 6-3 | 日本の原油はどこから来ているか ── 生命線の付け替え

中東直行は▲95%、穴は米国・南米(大西洋圏)が埋めた国別/ルート別の最新確報は5月(石油統計速報5/29)── 6月内訳は次回統計で更新

平時は原油の約9割が中東・ホルムズ経由(サウジ+UAEで約88%)。封鎖でこの生命線が断たれ、5月の中東直行は▲95%(1,260→60万kL/月)。穴を埋めたのは米国・南米=米国采配圏である。

調達構成の変化(平時 vs 5月・構成比100%積み上げ)
中東直行 中東バイパス 米国 南米 その他 平時 中東直行 82% 5月 バイパス21% 米18% 南20% 直行7% 米+南=采配圏 4%→38%
構成比は各月の合計を100%として算出(平時計1,527/5月計859万kL)。中東直行82%→7%米国+南米 4%→38%。生命線が中東から大西洋圏(米国采配圏)へ付け替わった。確定/推定
ルート(万kL/月)平時4月5月平時比
中東直行(ホルムズ経由)1,260060▲95%
中東バイパス(紅海/UAE陸送)110180新設
米国(ガルフ)5080150×3.0
南米(ブラジル等)1525175×11.7
その他(アフリカ・中亜・STS等)202192294×1.5
合計1,52740785956%
采配圏(米国+南米)は 65→325万kL、構成比 4%→38%。中東系5月は 直行60+バイパス180=240(構成比28%)=陸送バイパスで細く繋がる形。7/8崩壊で中東直行60は再びゼロ圏へ、米国依存が一段と上昇。6月分の国別内訳は次回統計で更新。確定/推定
▲95%
中東直行の平時比(1,260→60万kL/月・5月)。原油の約9割を占めた生命線が、ほぼ消失。確定
4%→38%
米国采配圏(米+南米)の構成比。4カ月で「米国の顧客」化=物量で×5.0。確定/推定
▲57.3%
5月の原油輸入 前年同月比(財務省貿易統計)。中東からは▲61.9%。6月は前年平月比8割・7月は10割相当の調達めど(閣僚会議)だが、7/8崩壊で再び不確実化確定
出典:経産省 石油統計速報(5/29)/財務省貿易統計・JETRO(5月YoY)/中東情勢関係閣僚会議 第10回(6月8割・7月10割)/Bloomberg船舶追跡。倍率・構成比は同系列からの算出値

日本の原油は、いまや「どこから来るか」が半年で書き換わった ── 中東82%→7%、米国+南米4%→38%。これは米国采配圏への顧客化そのものであり、崩壊はこの付け替えを不可逆に固定する(→思惑仮説A)。

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検証 6-2 | 日米の備蓄 時系列 ── 緩衝材が減っていく半年

二つの緩衝材が、同時に薄くなった米SPR(週次・百万バレル)と日本の備蓄(月次・日数)── 単位はそのまま、正直に並べる

① 米国SPR 週次残量(百万バレル・EIA確報)
420 380 340 300 260 運用限界帯 上端300 床 250 415.4 397.9 384.1 340.3 316.5 2/27 4/24 6/12 7/10
開戦時415.4(2/27)→316.5(7/10)=▲98.9(1983年4月以来最低)。月次取崩し:3月▲0.4/4月▲20.3/5月▲39.4/6月▲15.1〜(Axios・federal data)。全て確定(EIA/DOE)。
② 日本の石油備蓄 月次日数(資源エネルギー庁速報)
260 240 220 200 180 3月 第1弾30日分 5月 第2弾20日分 248日 200日 1月末 3月末 5月末 6/28
1月末248日→6/28200日▲48日(月約12日ペース)。●=公表2点は確定○=中間月は推計(2点間の線形補間)。内訳(6/28):国家106・民間91・産油国3。
並べ方の注記:両国は公表の粒度・単位が異なる(米=週次バレル/日本=月次日数)ため、共通化せず実単位のまま2枚並列とした。米は塩ドームの物理量(バレル)で運用限界帯(250〜300)に接近中、日本は需要カバー日数で管理し半年で2割を消費。SNSで拡散する「SPRの右肩下がり」に、日本の同時進行を並置した図。確定/推計

構図は一枚で伝わる ── 世界最大の緩衝材(米SPR)と、日本の備蓄が、同じ半年で同時に薄くなった。次の一撃を吸収する余力は、日米ともに歴史的低水準にある。

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検証 7 | 時計の再設定 ── 「8月の三点期限」は前倒しで崩れた

期限を待たず、7月上旬に決着した

前号「8月の三点期限」の検証結果(答え合わせ)

前号の予定表結果
覚書の60日交渉期限(8月中旬)前倒し崩壊 ── 7/8にトランプ「停戦は終わった」。期限を待たず失効
イラン制裁免除の期限(8/21)前倒し失効 ── 7/8に米が制裁を再発動。免除は約3週間で撤回
SPR臨界点(8月末〜9月上旬に250)後ろ倒し ── 実勢▲3.0/週へ減速。250は再加速なければ9月末以降
価格「安すぎる」(ターゲット8月下旬)前倒し的中 ── 8月を待たず$68→$82(+20%)へ反発
前号の三点期限のうち二つ(覚書・制裁免除)は、期限を待たず崩壊で決着した。価格の「安すぎる」も前倒しで的中。残る一つ(SPR)だけが、実勢ペース減速で後ろへずれた。時計は「8月集中」から「7月に前倒し+SPRだけ後ろ倒し」へ再設定される。確定

新しい時計 ── 次の分岐点

7/22
EIA週次(7/17週)。崩壊の全影響が出る最初の週。SPR放出が再加速したかの最重要の答え合わせ
8/11
EIA STEO 8月号。崩壊を織り込む最初の公式見通し。生産回復・在庫見通しの下方修正が焦点。
8月上旬
SPRが運用限界帯の上端300を割る(中心・実勢▲5/週、幅7月末〜8月下旬)。払出速度が落ち始める「入口」=最も近い分岐点。
9月初旬〜末
SPR 250接触のレンジ。再加速▲8-9なら9月初旬、実勢▲5なら10月中旬。価格抑制の弾薬が尽きる時計。
11月
米中間選挙。ガソリン価格と「戦争か平和か」が争点化。再エスカレーションの政治的誘因と抑止が交錯。

前号は「期限が来るたびプレミアムが戻り得る」と書いた。現実は期限を待たずに戻った ── そして次に市場が見張るのは、SPRという最後の緩衝材が床に触れる時計である。

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検証 8 | 思惑仮説(解釈レイヤー・紫=仮説表記)

「崩壊」もまた、織り込み済みの筋書きではないか

◆ ここからは仮説の章。前章までの一次情報・実測値を土台にした解釈であり、事実と区別するため紫で表記する。
仮説A(更新・強化) ── 米国:「采配圏」の実装は、崩壊局面でも一貫している

停戦崩壊は、米国の采配を弱めるどころか強めた。第一に港湾封鎖の再開と制裁の再発動 ── 蛇口の開閉権はワシントンが握り続ける。第二に通航料20%要求の撤回。トランプは料金を諦める代わり「湾岸諸国の対米投資で代替」とした ── 関所を金でなく“投資”で払わせる設計は、覇権の再構築という前号仮説と整合する。第三にSPRの逆張り運用。安値で放出し2027年に×1.25で回収する国庫運用は、崩壊による価格再騰でむしろ回収時の含み益が拡大する。価格の暴落も、その後の崩壊による再騰も、いずれも「采配する側」から見れば筋書きの内側にある。日本がイランの打診を断り米国采配圏に留まった事実(7/3)も、この構図を裏書きする。

仮説B(要再評価) ── 中国:安値の収穫期は、崩壊で閉じたか

前号は「中国は買わないことで価格を押し下げ、安値を収穫する」と整理した。崩壊による価格再騰($68→$82)は、この収穫の窓を狭める。ただし制裁再発動でイラン産の割引はむしろ深まり得るため、「割安イラン産だけを拾う」戦術は継続可能。焦点は、中国が価格上昇に追随して総輸入を戻すか(=過剰シナリオの消滅)、崩壊を口実に低輸入を続けるか(=需要側圧縮の継続)。主導権はなお北京の側にあるが、前号ほど一方的ではなくなった ── ここは次号で総輸入データ(Kpler)を用いて再検証する。

反対仮説(併記・前号から維持):一連の動きは思惑ではなく「価格・供給環境への経済合理的反応」「停戦の技術的失敗」との指摘(Reuters系)。本章は断定ではなく、次の一次データ(7/22 SPR・中国総輸入・IEA/EIA 8月号)で当否が検証可能になる、という位置づけ。新規傍証の出典:CNBC(7/14 封鎖再開・通航料撤回)・Windward・Kpler・Bloomberg。仮説

検証方法は前号から明快に引き継がれる ── 米国が蛇口(封鎖・制裁)を握り続けるか。7月の崩壊局面で握り続ける選択をしたことは、仮説Aを一段強めた。

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結び | 日本にとっての意味

安心の前借りは、2週間で取り立てられた

前号は「価格が買い戻したのは実態ではなく“停戦が持つ”という前提だ」と書いた。その前提は7/8に崩れ、価格は$68→$82(+20%)へ ── 前借りの安心は、わずか2週間で取り立てられた。現在地はこうである ──

前提は崩れた

通航は約10隻/日へ再壊滅、停戦は失効、制裁は再発動。価格が織り込んだ「正常化後の未来」は、来なかった

織り込み過剰は解消済み

緩衝材は最終局面

米SPRは316.5(1983年以来最低)、運用限界帯(250〜300)の上端まで残り約16。次の一撃に使える弾は、いよいよ薄い。

300割れは中心8月上旬(最も近い分岐点)

試金石は7/22

崩壊がSPR放出を再加速させたか。7/22公表の7/17週が、250割れの時計が9月初旬か秋以降かを分ける。

検証期限:7/22

構造は前号から変わっていない ── 変わったのは「停戦が持つ」という賭けが外れたことだけである。緩衝材が最終局面に入った世界で、次の変動はより速く、より大きく現れる。それが本号の結論であり、資産防衛の前提条件である。

出典一覧:EIA Weekly Petroleum Status Report(7/10確報・7/15公表)・STEO 7月号(7/7)/IEA OMR 6月号/資源エネルギー庁・METI公表資料/Money Flow Explorer(価格日次・7/17まで)/Kpler・Vortexa・TankerMap・straits.live(通航)/CNBC・Al Jazeera・TradingEconomics・Rigzone・OilPrice・Bloomberg・Reuters・Windward・Saxo Bank 各報道。数値はすべて上記一次情報・報道の実測・公表値に基づき、確定(一次情報)/推定(仮説)/予測(試算)を各所に明示した。SPRの250割れ時期は週次ペース依存の試算であり、7/22公表の7/17週で更新する。
本資料は情報提供を目的とし、特定の投資行動を推奨するものではない。 © 2026 Naoki Nishimura