見せたい結論はひとつ。4月に407万kLまで落ちた原油の物理供給が、5月は859万kLへ回復した。米国・中東バイパス(サウジ陸送)・南米ブラジルなどの代替ルートを、商社と政府が必死に確保した成果。だが、これで「平時に戻った」わけではない。
| 調達ルート | 平時 | 4月 | 5月 | 根拠・確認ソース |
|---|---|---|---|---|
| ● 中東直行(ホルムズ経由) | 1,260 | 0 | 60 | 実測ホルムズ通航停止(5/6以降2隻/日,PortWatch)。封鎖継続で戻らず |
| ○ 中東バイパス(サウジ/UAE陸送) | — | 110 | 180 | 追跡サウジ東西PL能力700万B/D。4/5フジャイラ初着。想定以上に稼働 |
| ○ 米国(湾岸) | 50 | 80 | 150 | 追跡5月VLCC9隻=1,670万バレル(西山氏AIS)。喜望峰・パナマ経由 |
| ○ 南米(ブラジル等) | 15 | 25 | 175 | 推定経産省TF・首相官邸5/25会見で言及。5月に急拡大 |
| ○ アフリカ(ナイジェリア等) | 15 | — | 50 | 推定読売5/27「6月は新たにアフリカからも調達めど」 |
| ○ 中央アジア(アゼル/カザフ) | 15 | — | 25 | 推定5/19アゼルバイジャン産が日本初到着 |
| ○ マレーシアSTS(湾内積替え) | 202 | 110 | 110 | 追跡西山氏AIS 4隻確認。新規調達でなく在庫流動化=持続性低い |
| ○ ロシア他(サハリン2) | 45 | — | 50 | 推定太陽石油サハリン2スポット購入。米財務省3/12容認 |
| ○ 製品輸入等 | — | 36 | 59 | 追跡原油でなく石油製品(ナフサ・ガソリン等) |
| ★ 原油 物理供給 合計 | 1,527 | 407 | 859 | 実測4月:石油統計速報5/29確定(▲65.7%)/5月:Bloomberg船舶追跡5/25暫定(▲27%) |
| + ナフサ等 製品輸入(中東外) | 45 | 168 | 135 | 実測米国産ナフサ前年比5倍(日経5/28) |
| ★ 物理供給 計(原油+製品) | 1,572 | 575 | 994 | 通関で実際に入った量。回復しても平時1,572には届かない |
数値は財務省貿易統計・Bloomberg船舶追跡・経産省TF等による(4月は確定、5月はBloomberg船舶追跡ベースの暫定)。平時欄は原油換算の便宜表示(全石油液体の平時=BP統計)。
5月の859万kLは確かな回復だ。だが本質はここ ── ホルムズ封鎖が続く限り、中東直行(平時の94%)はゼロのまま。代替ルートをどれだけ積んでも、物理供給が前年水準に戻ることはない。
つまり、平時1,572との差は埋まらない。その差を埋める手段は、ただ一つ ── 備蓄の取り崩ししかない。代替調達は「時間を稼ぐ」だけで、「解決」はしない。だから次に見るべきは、その備蓄があと何日もつか(→③)だ。
※注意:5月の859・南米175・アフリカ50などは船舶追跡・TF言及ベースの暫定値。STS(湾内積替え110)は新規調達でなく在庫流動化で持続性が低い。確報で下方修正の可能性あり。
平時の全石油消費 1,527万kL/月(BP統計2024実績)を用途別に分け、各用途が前年比で何%減ったかを当てはめて削減量を合算する。 分母(平時)も分子(積上)も同じ全石油ベースなので統計が整合し、結論がブレない。これが節約率の主軸。
① 輸入の激減=▲65.7%(原油輸入407万kL ÷ 前年1,189万kL)。これは「外から入ってきた原油」の話。② 実際に使った量の減少=▲17%(実需要1,269万kL ÷ 平時1,527万kL)。この2つが大きく違うのは、足りない分を備蓄取り崩し(494)と通関外供給(約200)で埋めているから。
注意点 ── 供給側(通関=原油+製品)と需要側(BP全石油1,527)は数えている範囲が違う。需要側にはLPG・国際バンカー・精製ゲイン(合計約200万kL)が含まれ、これらは通関に出ない。だから通関575を単純に積み上げても1,527には届かない。この約200を供給源として正しく足し込むことで、実需要1,269=通関575+備蓄494+通関外200 が整合する。
平時1,527から引くのではなく、実需要1,269を積み上げるのが正しい見方。①の575は通関ベース、実需要1,269は全石油ベースで統計範囲が異なるため、通関外供給「約200」には民間在庫取崩しに加え統計範囲のズレ(LPG・国際バンカー・精製ゲイン)が含まれる。
| 用途 | シェア | 平時 | 4月 節約率 | 4月 削減 | 5月 節約率 | 節約率の根拠 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ナフサ | 22.2% | 339 | 37% | 125 | 30% | 実測JPCAエチレン▲37%(稼働率67.3%・過去最低)。5/29速報でナフサ販売▲35.6%確定。5月はJPCA工藤会長「70%回復見込み」 |
| ガソリン | 23.7% | 362 | ▲7.5% | 27 | ▲7.5% | 実測5/29速報で国内販売310.3万kL(前年比▲10.9%)確定。構造減少▲2-3%除く真水▲7.5%。補助金170円維持でも予防的節約 |
| 軽油 | 18.3% | 280 | 0% | — | 5% | 実測経産省統計「前年超え」+暫定税率廃止(4/1)+補助金。物流需要は底堅い |
| LPG・潤滑油・アスファルト等 | 12.4% | 190 | 35% | 66 | 35% | 推定石化由来製品の連鎖減産から類推。直接の月次統計なし。要確報検証 |
| 灯油 | 6.7% | 103 | 10% | 10 | 8% | 実測経産省速報「前年比減」+季節要因(暖房端境期) |
| 国際バンカー(船舶燃料) | 6.6% | 100 | 15% | 15 | 18% | 推定中東タンカー貿易の停滞で日本港の給油需要減と類推 |
| A重油 | 3.6% | 55 | 15% | — | 12% | 推定経産省統計「前年比減」+産業稼働低下から類推 |
| ジェット・国際航空・B/C重油 | 6.5% | — | 8-10% | — | 小幅 | 実測推定B/C重油は前年超え(在庫潤沢)。航空は中東迂回で微減 |
| 合計 | 100% | 1,527 | ▲17% | 258 | ▲17% | 4月実需要=1,527−258=1,269万kL(83%)/5月=1,527−251=1,276万kL(84%) |
5月削減:ナフサ102・LPG66・ガソリン27・国際バンカー18・軽油14ほか、合計251万kL。
実測が付くのは ナフサ4月▲35.6%(5/29速報確定)、ガソリン▲10.9%(同)、軽油・B/C重油は前年超え。ここは確報レベルで動かない。一方 LPG・潤滑油35%は直接の月次統計がなく「推定」で、確報検証が必要。
結論の節約率17%は、最大セグメントのナフサ(実測▲35.6%)とガソリン(実測▲10.9%)が支えているため頑健。LPG等の推定部分は6月以降の確報で振れる可能性がある。この透明性を保つことが「数字がブレない」ことの担保。
供給で物理的に入る原油は平時の3分の1。その差を埋めているのが国の備蓄の取り崩し。ここでは「真の備蓄=国家備蓄+産油国共同備蓄」(民間備蓄=運転在庫は除外)が何日分=何万kL残っているかを追う。 毎月17日分(約494万kL)ずつ減少し、7月中旬に国際最低ライン90日=2,583万kLに到達する。
| 月 | 残(日数) | 残(万kL) | 取崩し | 状態・根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 2月末(封鎖直前) | 151 | 4,333 | — | 実測資源エネ庁「石油備蓄の現況」。出発点 |
| 3月末(第1弾放出後) | 152 | 4,362 | ±0 | 実測第1弾放出で日数維持。影響はまだ軽微 |
| 4月末 | 135 | 3,875 | ▲494 | 暫定17日分減。5/29速報で通関575確定・需要1,269に下方修正しペース見直し |
| 5月末 | 118 | 3,387 | ▲488 | 暫定5/17速報118日を月末値採用。原油回復で17日分減ペース継続 |
| 7月中旬(予測) | 90 | 2,583 | 同ペース | ★IEA加盟国の最低義務ライン到達。ここから「節約のお願い」が物理的に視野に。需要圧縮深化で2-3週後ろ倒し |
万kL換算は 日数 × 28.7万kL/日(備蓄法基準)。実体消費(BP統計50.9万kL/日)で割ると同じ備蓄量でも日数は約1.78倍短くなる(118日→約66日相当)。本表は政府公式基準(28.7)で統一表示。
政府の「供給確保・年越し可能」は、物理供給575 + 備蓄取崩し494 を足せば当面の量は足りる、という意味。嘘ではない。
だが貯金は毎月17日分ずつ確実に減り、7月中旬にIEA最低ライン90日=2,583万kLに届く。そこから先は備蓄バッファが効かなくなり、需要の絞り込みを一段深める=「節約のお願い」が物理的に避けられない局面に入る。民間備蓄(81日分前後)は石油会社の運転在庫で「緊急時も容易に放出できない」ため、この90日カウントには含めていない。
5月末残118日(3,387万kL)を起点に、代替調達・節約率・中東直行回復カーブを動かすと、4シナリオの90日ライン到達・年末残がどう変わるか。掃海6ヶ月版(慎重)ベース。 まず「動かす前提」と「動かさない土台」を切り分けるのが、この試算の肝。
測れない数字に時間をかけても意味がない。固い数字・論点の核・割り切る数字を切り分け、根拠の強さを明示する。
政府は「年内は供給を確保できる」と言う。だがそれは②④のように夏〜秋に解放(掃海開始)が起きた場合の話。まだ解放は宣言されていないため、いま現実に進行しているのは紫のD(解放なし)だ。
Dを延長すると、7月中旬にIEA90日ラインを割り、12月頃には備蓄そのものが尽きる。②④(赤・青)は、その破滅を回避するために交渉している「希望のシナリオ」にすぎない。下振れ(④+D)の確率は合計60%。
物理開放時期ベース(西村校正 5/28):②6月末開放=30% / ③7月末=10% / ④9月末=30% / D解放なし=30%(①5月末=0%)。「開放」は停戦合意ではなく、機雷掃海が始まり中東直行が物理的に戻り始める時期を指す。
計算式:取り崩し=実需要−物理供給(代替調達+製品+中東直行)。実需要=平時1,527×(1−節約率)。マイナス時は取り崩しゼロ(余剰は積み増さず据え置き=保守的)。基準取り崩しは実績(月17日分=494万kL)と整合。
以下は2カラクリと試算を支える分析の詳細。プレゼン本体の補足として、数値の出所と計算ロジックを参照用に残す。
需要軸(カラクリ①/節約率):「平時に対して何%絞られたか」を出す主軸。用途別10セグメントの節約率を積み上げる。分母(平時1,527)も分子(積上)も同じ全石油ベースなので統計が整合し、結論がブレない。
供給軸(カラクリ②/枯渇時期):「あと何日もつか」を出す。備蓄取り崩しのペースから算出。これは需要軸からは出てこない数字。通関の物理供給(原油407+製品168等)は参考のみ。LPG・国際バンカー・精製ゲインを含まず平時1,527と範囲がズレるため、これで割って節約率を出すことはしない。
BP統計(Energy Institute "Statistical Review of World Energy" 2024年実績)。日本の全石油液体消費 3.14〜3.20百万バレル/日 × 0.159 kL/バレル × 30日 ≒ 1,527万kL/月。国際航空・国際海運バンカー・精製ロス・LPG等を含む全石油液体ベース(バイオ燃料除く)。プロジェクトの根幹主張「政府の備蓄日数算定(分母180万B/D=28.7万kL/日)は実体(320万B/D=50.9万kL/日)の1/1.78に過小評価」を支えるため、この値は変更不可。
「真の備蓄」= 国家備蓄 + 産油国共同備蓄(民間備蓄=運転在庫は岩瀬昇氏の指摘により除外)。取り崩し量 =(期初日数 − 期末日数)× 28.7万kL/日(備蓄法基準)。
4月: 152日→135日(▲17日)= 取り崩し494万kL、月末残3,875万kL / 5月: 135日→118日(▲17日)= 488万kL、月末残3,387万kL。IEA90日ライン(2,583万kL)到達 = 7月中旬(5月末118日からあと28日分=804万kL、月17日ペースで約1.6ヶ月後)。
備蓄取り崩し = 全石油需要 − 通関供給 − ギャップ
4月で答え合わせ:1,269(需要・ガソリン▲7.5%反映)− 575(通関・5/29速報)− 200(ギャップ)= 494 = 取り崩し17日/月。需要を賄う供給源は3つ:①通関輸入 ②ギャップ分(LPG・精製ゲイン等の実在供給 約200)③備蓄取り崩し。①②で足りない分だけ③を取り崩す。取り崩しペースが旧20日/月→新17日/月に下方修正されたため、90日割れタイミングが6月末〜7月初→7月中旬に2-3週間後ろ倒し。
需要を測る物差し(BP統計=全石油1,527)と供給を測る物差し(財務省通関=原油+製品)は数えている範囲が違う。ギャップの中身:精製ゲイン約50(製油所で体積増)/ LPG約80(別ルート輸入・単位トン)/ 国際バンカー約100(日本港で外航船に給油し国外へ)/ 国際航空他約27。結論:ギャップは謎の石油ではない。LPG・精製ゲインは実際に供給されているため、「需要−通関」を単純に引くと実在の供給分まで「備蓄で賄った」ことになり取り崩しを過大評価する。だから需要軸の積上(分母と同じ全石油ベース)を主軸にし、通関逆算は参考に留める。
最初の主張(ボツ):「4-5月の574ペースを基準に中東直行回復分を引く」→ 4月の代替調達は実際には400万kLしかなかった。574を基準にするのは代替調達400の数字を720の世界で使い回す誤り=二重の過小評価。破棄。
次の主張(言い過ぎ):「引き算はダメ」→ 引き算はダメではない。ギャップを引けば実測と一致する。引き算が過大になるのはギャップを引かないからで、引けば正しい。
5/30確定:5/29速報でガソリン▲10.9%・通関575が確定。需要1,269・取り崩し494/月へ全体下方修正。「補助金で家計は守られる」は半分嘘で、家計はガソリンも▲7.5%(構造減少除く)削っていた。式は不変、入力値が一次データで修正された。
LPG:日本LPガス協会の需給月報で月次追跡可(単位トン・係数約1.85必要)。国際バンカー:石油連盟「ボンド扱石油製品」で月次追跡可(封鎖で変動大)。精製ゲイン:月次の独立統計なし、原油処理量の数%として概算のみ。追えないのは精製ゲインのみだが、3つとも原油の物質収支に毎月きれいに足し込むのは困難。これが需要軸(積上)を主軸にした実務上の理由。